ライフスタイルにプラスになる、ファッショナブルな情報を発信。-abox-

522

『マンハッタンのドーバーストリート・マーケット』ニューヨーク・ニューヨークVOL.117

今日は、マディソンです。

コム・デ・ギャルソン創始者の川久保玲さんがディレクションを手がけたコンセプト・ショップ、ドーバーストリート・マーケットに来ています。

日本では銀座にありますね。ただマンハッタンのドーバーストリート・マーケットはファッショナブルなソーホーでもミートパッキングでも、最近開発が進むハドソン川沿いでもない、ミッドタウン地区の普通のショップが立ち並ぶ地域にあるんです。

表側はこんな感じ。ミッドタウンのレキシントン街に面していて、しかもこの表示。まるで図書館か、お役所のようです。ですので私、この辺りを通ったことはたくさんあるんですが、今まで全く気づきませんでした。

階段を何段か上がったところにある扉がこれ。ドーバーストリート・マーケットのロゴをあらかじめ知っていればわかりますが、知らなけれドアを開けるまで果たして本当にここなのか半信半疑です。でも、ひょっとしたら、そんな意外性も川久保玲さん、お見通しな仕掛けなのかもしれませんね。

ちなみに、このマンハッタン・ショップは2013年に、銀座店の一年後にオープンしました。大体四半期ごとのペースで、ショップ内ブランドも、取り扱っている品自体もガラッとかわるそうです。

マンハッタンでは2018年にミートパッキング地区にオープンしたディス・イズ・ストーリーという、四半期ごとにコンセプトを変えるという実験的小売り店舗が話題になりましたし、翌2019年にはソーホーにショーフィールズという、やはり中を日本のデパートの催事場のように定期的に変えていく形態でスタートしたショップが、新形態のデパートとして街の話題になりました。ところが川久保玲さん、既にこの形態を2013年に実践していたというのですから、さすが未来を見るデザイナーとしてのセンスは別格だと思います。



もちろんコム・デ・ギャルソンも出店しています。床はコンクリート打ちっぱなしの粗い感じ。マネキンは躍動感あるポーズで今にも飛び降りてきそう。ちなみにコム・デ・ギャルソンというブランドが生まれたのは1969年、会社としてのスタートは1973年でした。また、コム・デ・ギャルソンとはフランス語で直訳すると“少年のように”という意味になりますが、川久保玲さんが表現したかったのは、“少年の持つ冒険心”らしいです。

川久保玲さんは、1986年にファッション・グループのインターナショナル賞を受賞されていますが、2000年にはハーバード大学からも優秀デザイン賞を受賞されています。2017年には、メトロポリタン美術館でその作品が展示されましたが、これは生存中のデザイナーとしては、イブ・サンローランに次いで2人目という快挙でした。

川久保玲さんってコレクション登場の時にもサングラスで表情がわかりにくいですし、インタビューにもほとんど応じないらしいので、とてもミステリアスな印象ですね。ただ数少ないメディアとのやりとりのなかに、“自分にとっては作品が全てで、作品を見てくれれば分かります。”という文章がありました。作品がメッセージだということなんでしょう。



ディズニーとのコラボ・ドレスも置いてあります。

今年は各コレクションとも大輪の花だったり、鮮やかな色彩の服が目立ちますが、このミニーのドレスの場合、ピンクをまとったミニーのイラストだけで花でもないのに、咲き誇る花のような華やかさに溢れています。手前のプラスチックのバッグも、笑いがたくさんイラストされていてパワフル。価格は591ドルという高価格ですが、これに関しても彼女、“私の作る洋服は高価ですが、それは特別の生地を作って、あらゆるディティールにまで確かな技術を追求した結果そうなるのです。”と数少ないインタビューで答えていました。

パワフル、自立している人間、彼女のデザインからは、そんな言葉が思い浮かびます。彼女の語録に“ファッションは着る人の人間性を包含するものです。美しさや格好良さに対する感覚は人それぞれで、私の感覚も常に変化しています。だから私には美とは何かという確固たる定義がありません。ショーのモデルには、強くて自立した人を選びます。人によっては彼女たちを嫌うかもしれませんが、私はそういう女性が好きです。”と。

マンハッタンのドーバーストリート・マーケットにはコム・デ・ギャルソン以外の、世界中からのデザイナーの服ももちろん置かれています。こちらはパリのデザイナーの服ですね。そもそもドーバーストリート・マーケットは、その名前にあるように、ロンドンのドーバーストリートからスタートしました。川久保玲さんがディレクションを担いましたが、そのコンセプトは“美しきカオス”。

ファッションとアートを融合させるコンセプトショップを目指しているんだそうです。

ですので、非売品もこんな風に幾つか陳列されています。

バレンシアガなどのストリート・ブランドも置かれていますが、マンハッタンのドーバーは7階建てで、この時期、グッチやロエベ、ゴルチエにリック・オーエン、プラダといった著名ブランドばかりでなく、約70種類ものファッション・ブランドで溢れていました。



アメリカの若者大人気ブランドのシュプリームも、もちろん置いてあります。写真で登場のアレックスによると、ソーホー・フラグ以外でこれだけ品揃えしているのは、ここドーバーストリート・マーケットだけで、ですから四半期ごとに品揃えが一掃する折には、長蛇の列ができてしまうそうです。

シュプリームの場合、全ての品が限定品なので、人気デザインのアイテムなど、発売と同時に売り切れてしまうことが多々あります。元々のTシャツの価格が80ドルだったとしても、売り切れてしまうと、イーベイなどのオンライン・オークションのサイトで150ドルまで上がって売れることも少なくないので、スニーカー同様、若者たちは新発売の列に並んで購入した後、中古販売でお小遣い稼ぎをしているみたいです。



ドーバーストリート・マーケットはファッションだけでなく、アートとの融合も目指しているので、所々にこうしてアートも展示されています。特に注目を集めようとしているわけでもなく、さり気ない感じで。

実はアートとファッションについて川久保玲さんが言われた言葉があるんですが、“ファッションとは、あなたが自分自身に取り付けた何かであり、そしてファッションが生まれた意味との対話を通じて、あなたが身につけた何かです。着ることなしにファッションは意味を持ちません。この点が芸術と違うところです。”と。

また彼女こうも言っています。“人が今、買いたいと望むからファッションなのであり、今、今日、身につけたいと思うからファッションなのです。ファッションはこの瞬間だけのものです。”と。彼女の言葉には、何時までも聞いていたくなる強いメッセージ性がありますね。それがコム・デ・ギャルソンの人気に繋がっているのでしょう。

地下にはローズベーカリーというカフェがあって、ブティック巡りに疲れたら、一休みできます。メニューにはキャロット・ケーキやバナナケーキ、イチジクのケーキまであって、どれもとっても美味しそうです。

さて、如何でしたか。実は今回かみしめながらドーバーストリート・マーケットを回った川久保玲さんの言葉があります。“すでに見たものでなく、すでに繰り返されたことでもなく、新しく発見すること。前に向かっていること。自由で心が躍ること。”そんな彼女に、マンハッタンはピッタリの街だと強く感じました。

ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『マンハッタンのドーバーストリート・マーケット』ニューヨーク・ニューヨークVOL.117Takashi -タカシ-

関連記事