ライフスタイルにプラスになる、ファッショナブルな情報を発信。-abox-

606

『冬のマディソン街』ニューヨーク・ニューヨークVOL.152

マディソンです。

早朝で、まだショップも開いていない、5番街のルイヴィトン・フラグ前に人だかりが出来ています。遠くからみると、ショーウインドーの中の女性がウィンドーペインティングしているように見えるんですが…。



ルイヴィトンは今年初め、日本が誇る世界的アーティストの草間弥生さんと、2度目のコラボレーションを発表しました。450点ものコラボ作品は、ヴィトン工房の職人さんたちの肝いりで、彼女の代表作ともいえるドットが各所に施されています。しかもそのドットに、まるでうきあがってくるかのような3D効果を持たせているんですね。ペインテイッド・ドットばかりかメタル・ドット、インフィニティ・ドット、サイケデリック・フラワーなど、彼女のドットの世界観にあふれているコレクションが店内にあふれ、建物の外観もドットで飾られています。ちなみにロンドンの高級デパート“ハロッズ”も、外観がドットで飾られていると聞きました。

この草間弥生ロボット、本当に精巧にできていて、遠目とか撮影ビデオで見る限り、本物そっくりな動きをするんです。表参道にも飾られているようなので、目にされた方もいるかもしれませんね。

今回のコラボは、ヴィトンと彼女だけでなく、ジジ・ハディットはじめジゼルなど世界的なモデルたちも集められています。そんな中、日本と関連のある故ロッキー青木氏の娘、デボン青木も選ばれました。彼女は80年代の頃にはサンローランやシャネルなど世界ブランドのコレクションに参加していましたが、結婚してからは表立った活動はしていません。そんな彼女が今回世界を代表する6人の女性モデルに選ばれたきっかけは、なんと彼女の父親のロッキー青木氏が生前、草間さんがまだ売れないアーティストだった時代に経済的に支えたからだそうです。ロッキー青木氏はアメリカン・ドリームの体現者で、ディカプリオの映画にも彼役が登場するくらい、アメリカ人なら誰もが知っているビジネスマンであり冒険家ですが、そのロッキー夫人の青木恵子さんは、AXESのファッション動画でもお馴染みですね。

5番街から変わってマディソン街へ。今日は70丁目でミーティングの後、通りをミッドタウンまで下りていきました。

今年2023年秋冬はメタバース世界のヒロインをテーマにしたというドルチェ&ガッパーナ、そのショップもまるでアニメかゲームの世界のような内装でしたよ。

80年代のバブルを象徴していたのが肩パットの入ったスタイルでしたが、今期のドルガパもシルエットが逆三角形で、その点は同じなんですが、他の点ではことごとく予想を裏切ってくるデザインなんです。例えばクラッシック風なスーツのパンツが、片方はロング、片方はショートになっているという具合に。全身タイツにブラックドレスを重ねたり、ピンヒールをはいたりと、セクシーさも強調されています。

こちらはロジェ・ヴィヴィエのショップ。

50年代ディオール・コレクションに起用されたことで、彼の名声は不動のものとなったそうです。パリの美術学校で彫刻を専攻していたそうですから、その手法を靴の制作に活かしたんでしょうか。彼の作る靴はまるで芸術作品のようと評されてきました。

彼の手による靴はエリザベス女王やウィンザー公爵夫人といった王族や貴族だけでなく、マレーネ・デートリッヒにエリザベス・テイラー、ブリジット・バルドーやカトリーヌ・ドヌーブといった銀幕のスターたちが皆愛用していたそうです。



マディソン街に沿って、変わったデザインの犬小屋が展示されていました。タイトルは“バーキテクチャー”で、建設を意味するアーキテクチャーと、犬の吠え越えを指すバークをかけた造語のようです。

スクール・オブ・ヴィジョアル・アーツと、マディソン街のビジネス開発部門とは長くコラボ経験があるそうですが、今回はキャラガン教授のクラスの生徒が制作、コロナ明けで人々が外に出始めている状況を後押しする作品群として、犬小屋をテーマにしたとのことでした。

マディソン街の61丁目から77丁目の間に、さまざまな種類の犬たちにふさわしいと思われる犬小屋が展示されています。ハイブランドのショーウインドーも見ごたえがありますが、その合間にホッとくつろげる犬たちとその小屋群、遊び心にあふれていますね。



こちらはエルメスでもバッグではなく、エルメス・ホームの方のショップです。

今期は、ギリシア神話に登場する魔女キルケの名がついたコレクションで、温かいシカモア材にピンク色の陶器が、ロマンティックな印象だと聞いています。

テーブルを飾るテーブルウェアの方はというと、寒い冬に太陽を思わせる黄色のコレクションの“ソレイユ・ド・エルメス。”ヤシの葉や花にインスピレーションを受けた絵柄は、躍動感にあふれています。

バッグだけでなく、生活のすべてをエルメスに取り巻かれていたい、と思わせる溌剌としたコレクションのようですね。

イタリアン・レストランの外、テーブルでくつろぐ赤のテディベアたち。開店前のレストランを通り過ぎる人々の顔が思わずほころぶ心憎い仕掛けです。

NYタイムズ評によると、フォーマルなドレスのお客やスーツ姿のスタッフとは対照的に、ネロのオーナーはジーンズ姿で、夜には外で葉巻をふかしているそうです。また、ディナーの価格はというと4人でチップを入れずに600ドル程度、ということは一人150ドル(20,100円、1ドル134円)もかかるけれど、あまり美味しくはないという意見なんですね。にもかかわらずレストランは大人気だということですから、そこかしこにユーモアも含めたセンスの良さが表れていて、何より夕食をとる紳士淑女たちが心地よく過ごせるということなんでしょう。



フラワーショップかと思ったら、何とロロ・ピアナのブテイックでした。世界最高素材で作られるカシミア製品ブランドですが、この店構え、どうみてもフラワーショップですよね。

ピアナのカシミア素材は、アンデス地方やモンゴルに生息する子羊から集められているそうですが、ここに飾られているロング・ジャケットは20,000ドル(268万円)はするでしょう。セーターでも大体100万円強しますから。悪くはないものの、ハイブランドのジャケットに比べて、デザイン的に優れているようにも見えないので、やっぱり高級素材だから、ということに尽きるんでしょうか…。

ちなみにロロ・ピアナ、ラグジュアリーブランドLVMH傘下のブランドです。



50丁目界隈まで下がってくると、オフィス街のミッドタウンらしい景色になります。アップタウンのこぢんまりしたショップから、大型になるけれども無機質な感じのショップに。通りを挟んでセリーヌもバレンシアガも、どちらもメタリックな作りでした。

セリーヌは今季インディーロックをテーマに、レザーのライダース・ジャケットやスキニーパンツといったスタイルが多く発表されました。前季がリラクシングでブルジョワなムードだったのに比べて、今回のコレクションは、2018年にクリエイティブ・ディレクターに就任したエディ・スリマンがLAに凱旋してのショーということと、その会場がローリングストーンズをはじめとするミュージシャンたちの音楽会場で開かれたということと関係がありそうですね。

一方バレンシアガは、世界中で大人気のスペインのブランドなんですが、去年のホリデーシーズンに向けた広告キャンペーンが大炎上してしまいました。広告の女の子が抱えていたテディベアがSMもどきのコスチュームをつけていたことで、長年コラボしてきた“お騒がせカーダシアン家”の長女キムはじめ、多数のセレブたちが次々バレンシアガというブランドとは決別すると発表したんですね。もちろんバレンシアガ広報は、直ちに謝罪広告を出したものの、一旦ボイコット運動に火が付いたら、なかなかイメージを回復するには時間がかかりそうです。

さて、如何でしたか。

レストラン外のテディは、あまり美味しくもないレストランを人気店にすることに成功した一方で、SMまがいのバンテージを着たテディは、世界大人気ブランドを凋落させるという、同じテディが全く別の働きになってしまったことを考えさせられました。

SNS拡散のスピードが速いので、ファッションブランドは細心の注意でキャンペーンを手掛けなければならない、ということなんでしょう。コンプライアンスが厳しくて表現の自由が損なわれるという声もありますが、一度炎上してネガティヴなイメージがついてしまうと、ブランドは何百億円もの大損害を被ってしまいます。私たちはやっぱり生きにくい、表現の難しい世界に向かっているということなんでしょうか…。

ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『冬のマディソン街』ニューヨーク・ニューヨークVOL.152Takashi -タカシ-

関連記事