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『バンクシー・イン・ニューヨーク』ニューヨーク・ニューヨークVOL.157

マディソンです。

今もっとも世界で価値あるアーティストの一人、バンクシーのオリジナル作品を集めた展覧会が、トライベッカの特設ギャラリーで開催されています。実は今年はバンクシーが初めてニューヨークを訪れてから10周年にあたるそうで、当時彼は約1ヶ月ほどこの街に滞在していたそうなんですね。

ステンシルを用いた彼の落書きアートは、突如として、世界中のストリートに突然現れます。今回はそんな神出鬼没で、強いメッセージ性のあるアーティスト、バンクシーの世界をご紹介しますね。

“警察に噓をつくことは決して間違いではない”

展示場に入るなり、何とも衝撃的な言葉が目に入ってきます。2007年に発表されたこの作品は、白いブリックの壁に黒い文字で、彼が、何が正しく何が間違っているかを公表しているわけなんですね。公共の壁に文字であれアートであれ、何かを描くことは罰金の罪に当たるんですが、それが彼の表現方法なんです。

実は1989年代のイギリスでは、多くの活動家たちが暴動を起こしたり、公共の場所に落書きアートをディスプレイしていたんですが、警察が取り締まりを強化、結果72人のストリート・アーティストたちが捕まり、25万パウンド(4,250万円、1パウンド170円)もの罰金をそれぞれに課したそうです。その中の一人がバンクシーの仲間のインキーだったことから、この作品が壁に描かれたという経緯があるんですね。

警察といえば、ジャックとジルというタイトルのこの絵の中にも警察嫌いなムードが漂っています。楽しく遊んでいるはずなのに、彼らが身に着けているのが警察の防弾チョッキだというんですね。

著書“壁と平和”の中でバンクシーは、“たくさんの親たちが彼らの子供たちのために何でもしてあげるというし、現に大きな犠牲を払って何でもしてあげている。ただ一つのこと、子供たちを彼ら自身のままにしておいてあげる、そのこと以外には”と答えています。

子供たちは無心にただ遊んでいるだけなのに、親や家族たちは過保護に心配するあまり、彼らをダメにするのではないかという危惧の表れのようです。

今回の展示のポスターにも使われている“花束を投げる青年-愛は空中に”は、彼のもっとも有名な作品の一つですが、これは2003年彼がイスラエルを訪れた際に、パレスチナとの間にそびえる壁に描いたものだそうです。

花束は平和と美のシンボルとして描かれていますが、バンクシーは先述の著書の中で、“最も規模の大きな犯罪は法を破った人々が犯したものではなく、法を守る人々によって行われてしまう”と訴えています。

警察に従わないという考え方に通じるものがありますね。

アヒルのおもちゃ。

世界共通の、子供がお風呂で遊ぶおもちゃですが、よく見ると水面下で不気味にサメが近づいてきています。ここでバンクシーが懸念を表明しているのは、グローバル市場という世界経済の中で成長する子供たちについてで、表面的には世界は便利になり、子供たちも裕福に満たされて育つかのように見える、その中で誰も気づいていない危険が、実は子供たちに及んでいるのではないかということらしいです。

先進国の子供たちの銃撃事件やいじめ、引きこもりなど、物質的に豊かな環境で育った子供たちなのに、実はその精神が実は弱くなってしまうことと、少し関連があるかもしれません。

この作品が発表された2006年は、彼のアーティストとしてのピークで、数々の作品を発表したと聞いています。

今回の展示では80点以上のオリジナル作品が見られるんですが、そんな展示場の真ん中に、ミッキー・スネークと銘打って、子供たちに人気のキャラクターのミッキー・マウスが蛇に飲まれている彫刻が展示されています。

実はバンクシー、2015年にイギリス南部にディスマランド(直訳すると、陰気なランド?)という名前の遊園地をオープンしたそうです。ディズニーランドとそれに代表される商業主義は、彼にとっていつも批判の対象だったようなんですね。

とはいえネズミ自体には自身を投影していたようで、彼の作品にネズミは多く登場しているんです。彼は“ネズミは許可なしに存在し、嫌われ、捕まえられ、迫害される。ネズミは静かなる絶望の中、汚物の中で暮らしている”と答えています。

バンクシーの信念の中の一番暗い部分が“資本主義を破壊せよ”というメッセージで、彼にとって革命を起こす手段というのが、ここに描かれているように、コンサートで売られているTシャツの模造品を販売することらしいんですね。

何故それが資本主義の破壊に至る革命の手段になりえるのか、少々わかりにくいんですが…。

イギリスの老婦人というと、人気番組”モンティ・パイソン“にもよく登場して、風刺コメディには欠かせない存在です。よく見ると老婦人の膝のセーターには“パンクは死なない”などのメッセージが編みこまれているんですね。

公共物にスプレーペイントする落書きアートは、70年代のニューヨークに出現しました。当時は公共物を破壊する行為として、人々は眉をひそめていたんですが、90年代に入ると、イギリスのパンク活動と融合していったそうです。やがてそれらはインディー的サブカルチャーに進化し、ヒップホップ音楽も絡めて、世界中で大きなサブカルチャーのうねりを起こしていったようなんですね。

下の絵では猿が“笑ってたらいいよ。いずれ俺たちが支配するから”というメッセージを下げていて、猿の惑星を思い起こさせます。人々が子供たちの成長に注意を払わず、資本主義に踊り、環境を破壊して自分たちの首を絞めていくなら、やがて人類は滅び、猿の支配がおとずれるという、警告なんでしょうか。

落書きは犯罪と、子供たち自身が描いているという皮肉。
下の作品の“風船と少女”こそ、彼のもっとも有名な作品の一つで、初めてバンクシーが風船と少女を描いたのが2004年、ロンドンのサウスバンクにある橋だったそうですが、右端に“何時だって希望はある”と書かれています。

次に彼は、今度はリバプール駅近くの商店の壁に同じように風船と少女を描いたんですが、これを店主がオークションに出そうとしたら大掛かりな抗議デモが起こって、そのままその壁に残すことになったそうです。

一方バンクシー、そして彼の風船と少女をもっとも有名にしたのが、2018年のサザビーズ・オークション事件でした。104,200ポンドで落札されたんでんですが、落札が決まった瞬間に額縁に仕掛けられたシュレッダーが作動、作品が断裁されてしまったそうです。当時の日本円で換算すると、何と1億5千万円!投機対象としてお金が積まれていくオークションへの嫌悪感を示した彼自身のパフォーマンスは逆効果を生んで、落札者はシュレッダー仕掛けごと持ち帰りましたし、バンクシーも、そして風船と少女も、かえって知名度を上げてしまいました。

資本主義の栄光と、その栄光を憎む人々、その栄光に押しつぶされてしまう人々…それに反旗を翻したバンクシーの表現すら、資本主義は飲み込んでいってしまったという皮肉。今回の展示では、いろいろ考えさせられました。

ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『バンクシー・イン・ニューヨーク』ニューヨーク・ニューヨークVOL.157Takashi -タカシ-

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