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没後日本初の大回顧展「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」レポート|現代にも続く普遍性と芸術性

こんにちは。ファッションエディターのKonatsuです。

2023年9月20日(水)から12月11日(月)まで、東京・六本木 国立新美術館にて「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」が開催されています。「モードの帝王」と呼ばれたイヴ・サンローランの没後日本初の大回顧展。芸術や日本にも影響を受けながら独自スタイルを築き上げるまでの40年にわたる歴史を垣間見ることができました。

ルック110体をはじめとした262点の作品・資料が全12章で構成されるこの展覧会の魅力を、部屋ごとに余すところなくレポートします。

0章|ある才能の誕生

画像1.ペーパードール|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

幼い頃、絵を描くことが好きだったイヴ・サンローランは、絵本の装丁や挿絵を手掛けた後、ファッションに情熱を傾けるようになります。そこで16歳のイヴ・サンローランが構想したのが「紙のクチュールメゾン」であるペーパードールです。

ディテールまで繊細に描かれたペーパードールからは、着せ替え人形が好きだった少女の幼心がくすぐられるようなときめきを感じることができました。

画像2.「品行方正」シャツ・ドレス|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

17歳でパリに渡り、コンクールのドレス部門で入賞したことをきっかけにクリスチャン・ディオールのアシスタントに抜擢されたイヴ・サンローラン。ディオールの急死後は、21歳の若さでチーフデザイナーを務めます。

画像2のドレスは「トラペーズ・ライン」として知られる、1958年にイヴ・サンローランが手掛けた初の春夏コレクションの1つ。「品行方正」と名付けられている通り、膝上丈で体のラインを拾わない台形シルエットや、丸襟とリボンできちんと感があります。現代の清楚系のアイドルが衣装で着ていそうな可愛らしさです。

1章|1962年 初となるオートクチュールコレクション

画像3.1962年春夏オートクチュールコレクション|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

1961年にオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を設立し、翌年には初のコレクションを発表。船乗りの作業着に着想を得たピーコートで幕を開け、大きな注目を浴びました。

「流行は移り変わるが、スタイルは永遠である。」
その言葉通り、金ボタンの紺色ピーコートと白パンツの合わせや、ハットやアクセサリーでモードにも着こなしたスカートスーツなど、どのスタイルを見ても古い感じがしないのが印象的でした。

2章|イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品

画像4.タキシード・サファリジャケット・ジャンプスーツ|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

イヴ・サンローランの代名詞となったデザインの中でも特に革新的なのが、紳士服からヒントを得て作られたタキシードやジャンプスーツ、サファリ・ルック、トレンチコートなどです。紳士服のカットの美しさや実用性を維持しつつもエレガンスを兼ね備えた作品の発表は、女性解放運動が高まった時代の空気と重なり、人気を集めました。

「女性を目先の流行から解放し、より大きな自信を与えるためにクラシックなワードローブの基礎を与えること」を夢見たイヴ・サンローラン。時代と共にファッションで女性を前向きに変化させ続け、現代女性のワードローブにもなっているスタイルの歴史は圧巻でした。

画像5.テイラード・スーツ|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

1970年代後半以降のコレクションでは、映画などから着想を得たカラフルで華やかなスーツやドレスが増え、女性のアクティブさと、イヴ・サンローランの芸術との関わりを感じることができました。

3章|芸術性 刺繍とフェザー

画像6.刺繍のカーディガン|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

イヴ・サンローランは、織物職人、染色職人など多くの熟練した人々と協働し、オートクチュールの伝統を作り上げてきました。質の高い素材を使用し、何百時間にも及ぶ複雑な工程が必要となる作品には、イヴ・サンローランの完璧主義な性格も表れているのではないでしょうか。

黒い部屋の中、スポットライトに照らされてキラキラと光る刺繍が、色あせることのない本物の技術を証明しているようでした。

4章|想像上の旅

画像7.アフリカ|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

20世紀、ヨーロッパのアーティストたちが異国趣味に魅了される中、イヴ・サンローランは読書や美術作品の収集で想像を巡らせる「机上の旅」を通して、各国への幻想をデザインで表現。色鮮やかで独特なデザインは、イヴ・サンローランのスタイルをより豊かにし、必要不可欠な要素となりました。

画像8.日本・中国|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

日本に関する書物なども多く収集し、デザインの着想としていたイヴ・サンローラン。暗い色調のシンプルなイヴニング・ドレスに、桜・藤・葦などの植物を描いた日本風プリントを施したり、刺繍入りのリボンを着物の帯のように見立てたりしています。

この空間では各国の伝統や文化を感じられる様々なスタイルが並び、イヴ・サンローランの作品で「机上の旅」を楽しむことができました。

5章|服飾の歴史

画像9.17-18世紀|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

ドレスが時代順にずらっと並んだ部屋。イヴ・サンローランは熱心に収集していた芸術作品と書籍をインスピレーションの源にし、服飾の歴史を探求しました。

シンプルなIラインのドレスに始まり、ウエストがキュッと絞られ裾が広がったロングドレス、ミニ丈のドレス、ファーガウンの豪華なドレスなど、過去の歴史に敬意を払いながらも、時代に合わせて自由にデザインをしていることが分かります。

画像10.1977年の花嫁|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

イヴ・サンローランは伝統的な典礼のコードから着想を得て、聖母の神聖さを反映させたような衣装も制作しました。他の展示とは距離を取られて並べられた重厚感のあるガウンを纏った衣装は、まさに神秘的でした。

6章|好奇心のキャビネット ジュエリー

画像11.ジュエリー|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

イヴ・サンローランにとってアクセサリーは付属品にとどまらず、理想のスタイルを完成させるために重要な役割を果たしていました。

驚くのが、こんなに煌びやかにもかかわらず、貴金属や宝石、真珠が使われていないこと。サンローランのジュエリーは、木材やメタル、ラインストーン、ビーズ、羽などの無限の組み合わせを楽しむことで、表現の幅を広げていました。

7章|舞台芸術―グラフィックアート

画像12.ミュージックホールのためのプロジェクト|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

舞台芸術に魅了されたイヴ・サンローランは、演劇、バレエ、映画などのためにたくさんの衣装をデザイン。それらを通し、自身の創造性と奇抜さを表現しました。舞台の世界観や躍動感が伝わるスケッチの数々。このセクションでは、イヴ・サンローランの作品の主要なテーマに光を当て、3つのパートに分けて紹介されています。

展示にはイヴ・サンローランが愛する友人や協力者に毎年送っていたという「Love」をテーマにしたグリーティングカードも。クチュリエのモチーフや尊敬するアーティストの作品と「Love」の文字や年号、サインをコラージュしたカードで、創造性と愛を感じることができます。

8章|舞台芸術―テキスタイル

画像13.舞台衣装|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

幼少期から演劇や舞台に夢中だったイヴ・サンローラン。生涯を通して様々な演劇や映画の衣装を手掛けています。映画の衣装は現実世界にも近いデザインに、演劇の衣装は照明で輝くきらびやかさ、ミュージックホールの衣装は登場するだけでステージが華やぐフェザーと、それぞれの芸術への熱量が伝わる作品に魅了されました。

9章|アーティストへのオマージュ

画像14.カクテルドレス|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

画像15.ドレス|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

イヴ・サンローランは、画家や作家など多くのアーティストたちと交流し、コレクションでオマージュをすることで、彼らの作品へ親愛や敬意を表しました。美術作品とファッションの融合は、伝統的なオートクチュールの世界に新しい風を吹き込むこととなります。

展覧会のビジュアルにもなっているカクテルドレス(画像14)は画家ピート・モンドリアンへのオマージュ。ブロックのように区切られた原色が、展示でも目を引きました。このドレスが注目されたことでサンローランとモンドリアンは共に名声を高めることとなったそう。オマージュをきっかけに相互作用が生まれているのが素敵です。

10章|花嫁たち

画像16.「バブーシュカ」ウエディング・ガウン|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

オートクチュールのファッションショーに欠かせないのがフィナーレを飾るウエディングドレス。この展覧会でも終盤に登場し、一般的にイメージする白のウエディングドレスとは異なる、イヴ・サンローランの斬新な作品に引き付けられました。

11章|イヴ・サンローランと日本

画像17.1963年春夏オートクチュールコレクション|「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」展示風景 国立新美術館 2023年

ディオール時代から日本製の絹織物に金糸刺繍を施し、コレクションに使用していたイヴ・サンローラン。1963年4月に初来日し、春夏コレクションを発表しました。滞在中に行われたショーについては三島由紀夫の小説でも言及されるなど、ここでも文学とのつながりを感じられます。

日本のファッション文化や産業と密接な関わりを持ったイヴ・サンローランのモードなデザインは、ファッション界の一部の人だけではなく、一般市民にも大きな影響を及ぼしました。

「2章|イヴ・サンローランのスタイル アイコニックな作品」でも触れましたが、女性に多様性や自由を与えたイヴ・サンローランのスタイルは、時代をも国境をも超え、現代の日本の女性たちのワードローブとなっていることを感じることができた展覧会でした。

展覧会概要

「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」
会期:2023年9月20日(水)〜2023年12月11日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7丁目22−2
開館時間:10:00〜18:00(毎週金・土曜日は20:00まで)
※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
観覧料:一般2,300円、大学生1,500円、高校生900円、中学生以下 無料
※障害者手帳をご持参の方(付添の方1名を含む)は入場無料
※10月7日(土)~9日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証の提示が必要)

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

記載事項や最新情報につきましては、展覧会ホームページをご確認ください。
展覧会公式サイト:https://ysl2023.jp
国立新美術館公式ホームページ:https://www.nact.jp

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