ライフスタイルにプラスになる、ファッショナブルな情報を発信。-abox-

365

『ようやくメット再開、11ブランドとのコラボで(後編)』ニューヨーク・ニューヨークVOL.94

今日は、マディソンです。 
前回に引き続き、8月29日に再開したメトロポリタン美術館とコラボして盛り上げているブランドをご紹介していきますね。

6番目はご存知、エスティローダー。

実は1946年に、ジヨーゼフ・ローダーとエスティ・ローダ―夫妻がニューヨーク市で立ち上げた、生粋のニューヨークブランドなんです。

年間売上高は約7ビリオンダラー(7,350億円)以上で、ロレアル、カミソリのジレット、ニベアらと並んで、今では世界トップ5に入るコスメ企業ですが、立ち上げ時にはクレンジングオイル、スキンローション、クリームにパックの4品品揃えでスタートしたと聞いています。

(写真:メトロポリタン美術館)

ローダー家は、ハンガリーを祖国とした東ヨーロッパ系ユダヤ人の家系なんですが、エスティ―の息子、といって現在は87歳になられているレオナルド・ローダー氏は大統領顧問も務めたほどの重要人物です。

実は私、90年代にローダー社がアヴェダ社を買収したときに独占インタビューしたことがあるんですが、まるでホワイトハウスと間違えるほどのプレス規制の激しさでした。

創業者でレオナルド氏の母親でもあるエスティ―さんには残念ながらお会いしたことはありませんが、一時期舞台女優として活躍されていたそうです。

女優業から退いてコスメ・スキンケア事業に集中すると発表した折、“私は自分の名前にスポットライトがあたることを熱望していたけれど、容器に入った私の名前にライトが当たることで満足することにするわ”と言い残したという逸話があります。

人気のローランド語録ではないんですが、エスティ―さんも逸話とその言葉が多々残っていて、雑誌のインタビューなどで年齢を訪ねられるといつも、“私の年齢?そんなことどうでもいいのよ”と返していたそうです。

1964年にはいち早く男性用コスメのアラミスを立ち上げ、1967年にはもう彼女は“アメリカのビジネス業界で最も活躍した女性10人の一人”として、メディアでもてはやされていました。

メットとのコラボがこんなに似つかわしいブランド、他にちょっと思い当たらないんですが、ローダー社が凄いと思うのは、今回のコラボ製品の売り上げは一部ではなく、100%メットに寄付すると発表したことです。

(写真:メトロポリタン美術館)

ジェイ・クルー(J.Crew)はTシャツでコラボしました。

実はコロナ・パンデミックが始まってすぐ、同社は破産申請を発表していたんです。
もちろん近年のデパートやショッピングモールの不振も影響していたとは思いますが、一番の原因は運営だったようです。2006年に376ミリオンダラー(約400億円)で同社は上場したんですが、その後2011年にLBO(レバレッジ・バイアウト)で、マネージメントが資金を調達して私有に戻そうとしました。

この資金は売り上げ増加で順調に返済できれば問題がなかったんでしょうが、モールなどの不振、加えてデザイン部門も振るわず、売り上げ減少に拍車がかかってしまったそうです。

それなのに8月29日のメット再開でコラボしていて、私たち一般の反応としては“あれ?倒産したの、していないの…?”とクエスチョンマークがたくさん浮かんだものです。

9月14日付けのウィメンズ・ウエア・デイリー(WWD)の記事によると、アンカレッジ・キャピタル・グループという投資顧問企業があらたに70%のオーナーとなって400ミリオンダラー(約420億円)を投資、これに合わせてしてバンク・オヴ・アメリカも400ミリオンダラーのクレジットを発行するなどして、破産申告当初1.7ビリオンダラー(約1,785億円)もあった借金のうちの1.6ビリオンダラー(約1,680億円)を資産に転換することに成功したとの話でした。

なるほど、運営する企業と人を変えれば、確かに同社のデザインはプレッピーで、ラグジュアリーだけれども手が届く、という今ドキのブランドではありますよね。2006年に発表された姉妹ブランドのメイドウエルも、ダウンタウン女子というクール路線で好調ですし。

(写真:メトロポリタン美術館)

今回のコラボで一番驚いたのが、この職人が作るチョコ、マストでした。

2007年にブルックリンで、職人が作るチョコとして立ち上がったマスト・ブラザーズ。草食牛肉で世界中で人気のハンバーガー・チェーンの “シェイクシャック” や、 “ラグ&ボーン” のブテイックでも売られていたマスト・チョコは、1枚何と10㌦(約1050円。)幾らほぼ手作りで美味しくても一枚が10㌦というのは衝撃的でした。とはいえその包み紙のイラストも素晴らしく、ニューヨーク・タイムズやヴォーグ誌にまで紹介されて、あっという間に人気チョコとなりました。

ところが2015年、元従業員からの情報として、マスト・ブラザーズでは初期の頃、自分たちでカカオ豆から作っていたわけではなく、フランス製のチョコのヴェローナをいったん溶かして、それを型に入れなおして作っていたとすっぱ抜かれたんです。

映画“チャーリーとウィリー・ウォンカのチョコレート工場”よりも斬新なストーリーという見出しで、あちこちで話題になりました。ただ、マスト・ブラザーズ側も確かに初期の頃、そうした実験を多々していたと認めたので、騒動は収まり、そうした経緯があっても10㌦チョコ人気は定着したということなんでしょう。
コラボチョコの包み紙、芸術的で素敵ですよね。

(写真:メトロポリタン美術館)

こちらはキッドボット。北斎による神奈川沖浪裏がデザインされています。
日本にはもともとキャラクター・フィギュア文化が定着していますが、2002年にアジア出張に出たポール・バドニズ氏はアジアの細部までこだわったフィギュアに感銘し、フィギュアのデザインを始めようとキッドボットを起業しました。

今回のメットの箱はそんな彼の創業当時ヒットした手法を少し思い起こせます。
メットのこの箱は中が見えますが、最初バドニズは、中の見えない箱にフィギュアを隠して8㌦で販売し始めました。
日本のトレーディング・カード集めのように、同じモデルに当たったなら、交換するというシステムを持ち込もうとしたのです。
これが話題を呼びました。

最初の衝撃を超えると、コアなファンたちは次の手を待つようになりましたが、彼自身は最初から、何か面白いプロジェクトがしたいという思いで始めた起業です。

企業規模が大きくなるにつれて、生産性が要るとか、コストを下げろとか、一分間に10ヶはフィギュアを売らなくてはならない、などなどは彼の初志とははるかにかけはなれた、とうてい受け入れがたい要求でした。

バドニズ自身がそうした混迷の中にあったようで、2015年頃キッドボットは一旦すっかり見かけなくなったんですが、どうやら復活したようです。再開したメットのように。

(写真:メトロポリタン美術館)

変わってこちらは比較的新しく、2009年創業のネイティブ・ユニオンのバッグ。

アップル社が絶対に彼らのアクセサリーでなければと断言するほど、デザイン意識高い系のテック付随製品を製造しています。

10年前、創業者のジョンとアイゴーは香港にあるシェア・オフィスで出会いました。
初対面から彼らは、アイフォンなどのスマホは高度なデザインが要求されるのに、何故付随するテックアクセサリーの方は機能性だけが重視されて美的ではないんだろうと意気投合したそうです。

(写真:メトロポリタン美術館)

ケーブルなのに、メットの赤とアクセントのボールが可愛いですね。

彼らによると、“僕たちは、単に美しいテック・アクセサリーを提供しているだけだと思われている。
でも、そういうことではないんだ。今やテクノロジーは人々の日常生活に欠かせないアイテムになってしまった。

それらに取り巻かれる生活を余儀なくされるなら、その中で個々の個性あるライフスタイルを確立できるように、身の回り品の選択肢を少しでも多くしたいんだよ。”

(写真:メトロポリタン美術館)

どれも甲乙つけがたい、前編も合わせるとストーリー性満載の10ブランドになりましたが、最後11番目も面白いですよ。

ザ・シルは元々オンラインから販売開始した、植物を自宅に届けるサ―ビスを行っています。
2012年に、当時若干26歳だったエリーザ・ブランクという女性が立ち上げました。
オフィスに観葉植物を届けるサービス自体は特に新しいものでもなく、以前からかなりアメリカでもありましたが、ではこのシルの何が新しいのかというと、まず第一に挙げられるのが、環境保護のサスティナビリティと繋がっている点でしょう。

動物のように、“植物を保護し、育てませんか?”という誘いなんです。

つまり、犬や猫ほどではないけれどペットとして植物を世話しましょうよ、というアプロ―チ。それに植物は気持ちを落ち着かせてくれるだけでなく、空気もきれいにしてくれますよね。
近年アメリカでは部屋の内装ブームが起きていて、そのビフォア&アフターには必ず植物が飾られていることもザ・シル人気に追い風になっています。コロナでリモートでの仕事が増えるほど、自宅で過ごす時間が増えるので。年会費39㌦で、10%オフやイベント参加などのプロモーションも受けられます。月60㌦で毎月選んだ植物が届くサブスクリプションに参加することもできるんですよ。

(写真:メトロポリタン美術館)

とはいえ、メットとのコラボでは上記植物の鉢と表示だけが記念販売になるので、実際の植物の注文はサイトからになりますが。

さて、如何でしたか。メットが凄いのは、例えばスキャンダラスなニュースが一度流れても、そういうこととは関係なくブランドの価値を見極めてコラボする革新的な点ですね。

製品自体が高額でなくても、品質が良ければ組む。伝統あるものだけではなく、新しく、まだ真価が問われている最中のものでも組んでみる。

メット自体は150年たちましたけど、過去の150年は美術館として単に評価のあるものを並べて人々に見せるだけではなく、その時代その時代に生きている美のエッセンスを取り入れ、それを一般に紹介して見せる、そんな活動をいきいきと積み重ねた150年だったということなのでしょう。メット、恐るべし。

ではまた、再生していくニューヨークで、是非お会いしましょう。

『ようやくメット再開、11ブランドとのコラボで(後編)』ニューヨーク・ニューヨークVOL.94staff

関連記事