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『ギャズビー流のピカソらしさとは』ニューヨーク・ニューヨークVOL.162





マディソンです。

ブルックリン美術館、またまた野心的な試みで、オーストラリアで人気のコメディアン・ギャズビーによるパブロ流と銘打って、ピカソのイノベーション感覚をフェミズムや人種差別の観点から理解しようという展示が開催されています。

表題自体が難解で迷いそうなので、こうした展示を見て回るには、精神力はもちろんですが、体力も要りそうです。

こちらはピカソですが、イタリアの寓話にヒントがある作品だそうです。

眠れる美女のもとを訪れた獣、その獣は満月の光を浴びると王子に変身、真実の愛で二人は結ばれるというストーリーで、1936年に彼はこの作品を完成させました。興味深いのは、その前年の1935年に彼は不倫がもとで離婚し、愛人との間に娘が誕生しているんですね。

ピカソというと“泣く女”が有名ですが、こちらは1937年の作で、女性遍歴の激しかった彼の周りには泣く女性たちが溢れていたと思います。

驚くのは、既婚であるにもかかわらず1932年からマリー・テレーズ・ヴァルテルと共同生活を始めて、彼女との間に娘ができたことで離婚したんですが、離婚の原因となったマリー・テレーズとも、子供ができるなり雲行きが怪しくなり、1935年ドラ・マールとの恋愛が始まったというんですね。

このドラが本当に良く泣く女性だったらしく、1937年の“泣く女”のモデルだと言われているんです。

今回の展示のポイントは、ギャズビーによるピカソ流というところで、従って彼女の眼を通したピカソ流なアート群が並んでいるんですね。その一つがこのエマ・アモスによる“花をかぐ人”という絵画です。

エマはアメリカのアーティストで、2020年に83歳で亡くなるまで、精力的にたくさんの作品を残しました。ただ彼女にとってアートは常に政治的な表現の手段であり、性や人種差別に対抗するという意味がありました。

彼女個人としては、自身のうちにある不安感を表現することに没頭したからなのか、生前はあまり評価を受けず、従ってその作品もあまり売れなかったようです。確かに、家に飾って落ち着くというよりは不安感をあおられるアートのような気がします。

フランス系アメリカ人の、ルイーズ・ブルジョワが1924年に発表した“デコントラクテ”という作品です。彼女のテーマはいつも家族と家庭、身体と性、死と潜在意識でした。

彼女の作品は、シュールリアリズム的でありフェミニスト的と評されていましたが、先述のエマのように、自身がフェミニズム運動にかかわることはなかったそうです。

エマたちが活発だったのが、1985年に結成されたゲリラ・ガールズ運動で、ゲリラならぬゴリラの仮面をかぶって、女性アーティストに対する社会差別を声高に訴えました。

きっかけとなったのが同年のMOMA美術館の展示で、169人の展示のうち、女性が13人しか選ばれなかったという事実でした。

ポスターによると、女性アーティストの利点は、成功のプレッシャーを感じずに作品作りができることだというのです。つまり女性アーティストは成功できないことを皮肉っているんですね。

また、“4つもフリーランスの仕事をかけもってアートの世界から逃避ができますよ”というのは女性アーティストはアートだけでは食べられないことを訴えています。女性アーティストという立場を痛烈に風刺したポスターで、これを掲げて男性アーティストとの平等を訴えました。

上の作品がディンガ・マッキャノンによる2012年の“レボリューショナリー・シスター。”

彼女によると、60年代や70年代には女性戦士がいなかったので、自身でそのイメージを作ろうと思ったとインタビューに答えています。彼女はアフリカ系アメリカ人なんですが、女性であるだけでなく、人種差別の壁もあり、アーティストとして生きていくには2重の壁を感じなくてはならなかったそうです。

絵画の女性戦士の髪は、自由の女神からインスピレーションを受け、ドレスの赤は自由のために流した血、アフリカを彷彿させる緑、そして自分たちの肌の色である黒で表したそうです。そうして戦士なので、腰には弾丸ベルトをまとっています。

今こそ女性アーティストに自由を!そんな声が聞こえてくるかのようです。

一方、下のポスターはゲリラ・ガールズによるもので、性差別も人種差別も最早ファッショナブルではないと訴えています。

白人男性であるジャスパー・ジョーンズによるアートが17.7ミリオンダラー(約25億円、1ドル141円)で落札されたことを受けて、リストの女性アーティストの全員の作品が、一つずつ全部買えたのにと結んでいます。

こちらはフィリップ・パールスタインによる2018年の作品で、タイトルは“リンダ・ノチリンとリチャード・パーマーの肖像。”

リンダ・ノチリンはアート歴史家ですが、筋金入りフェミニストとしても知られていました。彼女の書いた“どうして女性アーティストは成功していないのか”というタイトルのエッセイは、女性アーティストに立ちふさがる社会的壁や偏見を訴えて、彼女の考えを一般に広めることに成功し、女性アーティストにとって強力な追い風になりました。

隣の男性は、彼女の2番目の夫であり、建築歴史家であるリチャード・パーマーです。

最後は他の作品に比べると穏やかな、エジプト生まれのアメリカ人アーティスト, グゥアダ・アーマー作“ヘザーの劣化。”現代アート画家である彼女のテーマは常に性差と性で、ここに描かれているヒースは普通は紫色のみずみずしい花をつけるんですが、枯れて赤茶けていて、もの悲しさを誘います。

注意して目を凝らさないとわからないんですが、だまし絵のように、裸の女性がまず描かれて、それを覆いつくす枯れたヒースという構図なんですね。緻密な抽象的表現に長けていた彼女らしい作品です。

なんだかとっても考えさせられる展示で、さすがブルックリン美術館、仕掛けてきていると感じました。

地下鉄でマンハッタンへと戻ると、パーク街にアートが。ニューヨークは美術館が充実しているだけでなく、街中のあちこちにさりげなくアートが展示されていると今更ながら思います。 これはギリシャのアーティスト、ソフィア・ヴァリの1997年の彫刻だそうで、コロナ後にこの場所に飾られました。

彼女は60年代から彫刻作品を発表しだしたそうですが、80年代から人体を模して丸みを帯びた曲線を作品に取り入れ、90年代半ばからは色味を加えてという風に、年代的に作風が変わってきているアーティストです。ここにも、ピカソのようにイノベーションを重ねている女性アーティストがいるようですね。

上の写真は、高級デパート“ブルーミングデールズ”のルイ・ヴィトンのディスプレイです。下の方が、5番街フラグ前で、どうやらメタリック・シルバーをアクセントに取り入れているようですね。

5番街をはさんで向かい側の高級デパート “バーグドルフ・グッドマン” もシルバーカラーをショーウィンドーに取り入れていたので、この夏のリゾート地や秋のはじめの富裕層のパーティーでは、シルバーカラーのバッグや靴が多々見られると思いますよ。

さて、如何でしたか。

今年はピカソ没後50周年にあたるらしく、世界中でこの破天荒な生涯とその作風をたたえる展示が開催されている模様です。ブルックリン美術館では、そんな彼の当時常識とされていた生き方やアートを打ち破った功績を、女性アーティストたちが立ち上がったゲリラ・ガールズ運動に寄せて、ゲイを公表しているコメディアンのギャズビーが監修チームに加わった展示を開催していました。

壁を打ち破る運動の結果、今では女性であることはアーティストにとって決して不自然なことではなくなっていますし、パーク街の通りにすら、革新的な女性アーティストの彫像が飾られています。

ファッション業界はもちろん、販売のために人目を惹く目的もあるんでしょうが、特に5番街フラグは次々革新的なディスプレイを仕掛けてきています。ニューヨークは進化を続ける、動の街だとつくづく思います。

ではまた、そんなニューヨークでお会いしましょうね。

『ギャズビー流のピカソらしさとは』ニューヨーク・ニューヨークVOL.162staff

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