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『サルトの誇り、キートン』ニューヨーク・ニューヨークVOL.114

(写真:Kiton Women’s FW21 (24) by Kiton)

今日は、マディソンです。

キートンのNYフラグシップ店は5番街から少し東の、54丁目に面しています。コーチの5番街フラグや、ヴィヴィエンヌ・ウエストウッドのショップが並ぶ辺りで、その上お隣にはこじんまりとした人工滝が流れて、夏でも涼し気なパーレィ・パークがあります。パークと言ってもセントラル―パークのような巨大公園では全くなくて、建物一棟くらいの広さの敷地に人工滝と数本の木、それにテーブルと椅子がいくつか並んでいるだけ。それでも5番街の1スクエア辺り最高額のこの辺りに、避難所としてひっそりあるのが嬉しいんですね。

さて、今回ご紹介したいのはイタリアから来たブランド、キートンのニューヨーク・フラグシップ店とそのコレクションです。


(写真:Kiton Women’s FW21 (4) by kiton)


(写真:Kiton Women’s FW21 (27) by Kiton)

キートンのドレスは、荘厳さが際立っていて、一種幻想的ですらあります。

正統派ドレスアップでありながら、それでも少しエキゾチックなのは、キートンがイタリアのナポリ発だからという所以もあるようです。ナポリは紀元前5世紀に、ギリシアの植民都市ネアポリス(新しい都市)としてスタートしましたが、良港に恵まれていたことが反って災いして、2000年にもわたって異民族に支配される都市となってしまったんです。その結果、ローマ帝国や北方民族、フランスやスペインなど、様々な国の文化を反映した建造物や造形分に溢れたユニークな都市となりました。キートンのエキゾチックで尖った美意識は、そんな都市で生まれたファッションだからなのかもしれません。


(写真:Kiton Women’s FW21 (6) by kiton)

ドレス自体は優雅なドレープを描いて、70年代にダイアン・フォン・ファステンバーグが社会的現象にまで押し上げたラップドレス風、しかもとてもシンプルです。この装いの注目点は、何といってもストライプのブーツでしょう。縦長で、足の長さが強調されるというだけでなく、ここでもエキゾチックな美意識が顔をのぞかせていますね。ドレスよりも、ブーツの方が少し濃いトーンなのがニクイです。


(写真:Kiton Uomo FW21-22-Lookbook Press (39)by kiton)


(写真:Kiton Uomo FW21-22-Lookbook Press (4)by Kiton)

ここで紹介されているメンズウエアは、カジュアルなのに迫力満点。

現在キートンはNYフラグの他に、高級デパートのニーマン・マーカス6店舗、それにやはり高級デパートのサクスフィフス・アベニュー店舗内にあるショップ・イン・ショップで全米展開しています。ここに上げたコレクションは、アメリカ市場を意識した少しカジュアルなもの、それに女性用のドレスですが、本来キートンは、その職人技でも、それから価格の面でも世界最高級のメンズスーツで知られているんです。

ナポリの男性たちは、イタリア人のなかでも派手好みで、しかもスーツの仕立てに関してはまるで強迫神経症並みにこだわりが強いそうです。そんなナポリ男性を満足させ虜にしてきたキートンにとって、ナポリ以外の男性たちを満足させることは朝飯前といった趣でしょうか。

日本では伊勢丹新宿店や、日本橋高島屋内で販売、御殿場にはキートン・アウトレット店まであるそうですが、経済が上向きのアジアでのキートン人気は凄まじく、中国では近年2年くらいの間に、10店舗近くオープンしたと聞いています。


(写真:LB KNT SS22 Press (29)by kiton)


(写真:LB KNT SS22 Press (21)by Kiton)

故郷ナポリで、サルトと呼ばれている仕立て職人は、さまざまな文化圏の人々が都市を支配する勢力となるたびに、その人々の嗜好に合わせながらも、新に美意識の高いスーツを作り続けてきました。

もちろん今でもキートンのサルトたちの誇りは強く、イタリアに5つの製造工場を持っていますが、800人のスタッフのうちの56%がテイラーをはじめとする職人たちだそうです。明日のマスター仕立て職人を夢見て、見習い職人たちが20人、日々研鑽していると聞きました。

高級デパート内以外にも、ブテイックだけでみると世界73ヶ国に、54店舗あるそうですが、セレブが着ているといった宣伝をしないばかりか、ロゴもひっそりと隠しているのでブランド名はあまり一般に知られてはいません。というのも、これに関してアメリカ支社長であるアントニオ・パオーネいわく、“例えばトム・フォードのスーツを着ている男性を見て、そのロゴから、トム・フォードのスーツだということが一目瞭然となりますね。

私たちにとって、キートンのスーツを着ているとお客さまが見られることが重要なのではなく、自然で堂々と美しくスーツを着こなされていることこそが大切なんですよ”と。


(写真:LB KNT SS22 Press (17)by Kiton)


(写真: LB KNT SS22 Press (15)by Kiton)

堂々とした押し出しがありながら、それでいてエフォトレス、つまり頑張っていない感がキートンウェアのポイントのようですね。前述のアントニオいわく、“スーツのボタンの穴をかがっている糸が多すぎるかどうかまで触るだけでわかる職人たちが、その最高の技で努力していたとしても、一方の着る側には気負いなく、自然体で着られるスーツ”を目指しているんだそうです。

そうして、その技をスーツだけに固執せず、今度はアメリカをはじめ、近年世界中に広がるスニーカーと合うカジュアル服へと活かし、また女性用のドレスにも活かすことで、世界中で愛されるブランドへと着々と上り詰めています。

それができるのは、創業者チノから脈々と受け継がれているテイラーへの理解。チノの七代前から一族は、ずっと服地卸業を営んできたそうです。一族はずっと、サルトたちの誇りを理解し、サルトたちとともに事業を広げてきました。


(写真:KNT FW21-22-Lookbook Press (22)by Kiton)


(写真:KNT FW21-22-Lookbook Press (18)by Kiton)

キートン会長マッシモがファッション誌のインタビューに答えて、1968年に同ブランドを創業したチロ・パオーネとラルフ・ローレンとの間に起こった面白い逸話を紹介しています。

ナポリを訪れたラルフとナポリで意気投合したチロは、ラルフがアメリカで成功した重要人物だと知っていたそうです。それでニューヨークに来るとすぐ、ラルフのオフィスをアポなしで訪ねました。アポなしですから、秘書は当然“ラルフはお会いできません”の一点張りで帰そうとしました。業を煮やしたチロは“ナポリで、俺とラルフはモッツァレラチーズみたいにべったりだったんだ。ラルフを呼べ!”と秘書に命じたそうです。

ようやくラルフが現れると持参したジャケットをラルフに試させ、“なんて素敵なジャケットだ!”とほめたたえられたにもかかわらず、そのジャケットをプレゼントしないで、ナポリに戻りました。以来、2度と彼がラルフ・ローレンに会うことはなかったというお話。

きっとナポリでラルフ・ローレンは、ニューヨークに来たら訪ねるようにチロに言ったのだと思います。ナポリでもてなしてくれたチロへの社交辞令として。それに、チロがもし秘書を通じて事前にアポイントメントをとっていたら、ラルフ・ローレンはきっと時間通りに現れ無事再会をはたしていたことでしょう。でも、チロはあくまでナポリの友達として会いたかったのではないかと思います。

まるで映画のワンシーンのような逸話ですが、ニューヨークだからだと言ってアメリカ流に合わせるのではなく、ナポリ流をとことん貫いたやんちゃな創業者だったんですね。


(写真:Shopfront by Kiton)

さて、如何でしたか。

イタリアの服職人たちの誇りを代表してニューヨークにあるキートン。54丁目のショップは、マンハッタンにありながら、ナポリ的でエキゾチックなデザインのコレクションに溢れています。遊び心に迫力のあるキートンのショップ、是非マンハッタンに来られたら訪ねてみてください。
 
ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『サルトの誇り、キートン』ニューヨーク・ニューヨークVOL.114Takashi -タカシ-

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