ライフスタイルにプラスになる、ファッショナブルな情報を発信。-abox-

1,404

『マンハッタン新名所、リトルアイランドとルーフトップパーク』ニューヨーク・ニューヨークVOL.139

マディソンです。今日はチェルシー地区に来ています。

まるで天空の城ラピュタのような水上の島でしょう?これが去年の春にオープンしたばかりのマンハッタンの新名所、リトルアイランドなんです。

チェルシー地区から橋を渡ってリトルアイランドに入ってくると、踏むと音が鳴る装置が出迎えてくれます。デザインは、ハドソンヤードのベッセルもそうでしたが、イギリスのデザイン事務所、トーマス・へザウィック・スタジオが手掛けました。

実はこの辺りは2012年にハリケーン・サンディで大きな被害を被った地域で、埠頭には木の杭の残骸が残っていました。それにインスピレーションを受けたへザウィックがコンクリートの杭を280本も打ち込んでこの島の土台をつくりました。とはいえ、元々あった木の杭も残して、水生生物たちの住処も確保するという、自然を残しながらのプロジェクト。コンクリートの杭を打つだけで10ヶ月という、ため息がでるような長さがかかったと聞いています。

その杭の上に付けたチューリップの花のようなコンクリートのポットは何と132ヶ!しかも、まるで雪の結晶のように、全く同じ形は一つもないそうです。コンクリートを素材として使いながら人工的に見えないのは、そんな工夫のせいなかもしれませんね。

中は緑で一杯。

ランドスケープ・デザイナーのシグニー・ニールセンは、“水に浮かぶ木の葉”をイメージして114本の木と66,000ヶもの球根を植えたそうです。

残された木の杭もそうですが、これらの緑の効果もあって、本来は人工的に見えるはずのコンクリート・ポットがそうは見えず、未来公園のように見えるんですね。

ミッドタウンからダウンタウンに向かうには、ハドソン川沿いの高速道路を使った方が交通渋滞を避けられるので、9月と2月のファッションウィークの折には、よくこの前をイエローキャブで通ったものです。そのたびに、これは何だろう、何ができるんだろうと不思議に思っていました。



オルガンの演奏があったり屋台もでているので、公園内で演奏を聴きながら食事ができます。

実はこのプロジェクトは、IACというメディアグループの会長バリー・ディラーとその妻、ダイアン・フォン・ファンステンバーグの、夫妻からのニューヨークへの贈り物なんです。それも260ミリオンダラー(約348億円、1ドル134円)もの。

バリー・ディラーは、世界でここにしかない公共施設を是非造りたいと望んだそうです。禅寺で有名な南禅寺方丈庭園は、その中に世界や宇宙を表現しているような気がしましたが、このリトルアイランドも、2.4エイカー(約9713平方メートル)の中に、さまざまな景色を見せてくれるんです。

中には食事ができる広場だけでなく、緑の芝生でくつろぐこともできます。季節の花々に囲まれた小道を上がって展望台にたどり着くと、そこからはダウンタウンの景色とその向こうにワンワールドトレードセンターが、ハドソン川の向こうには開発が進む対岸のニュージャージー州の景色、そしてさらに遠くには小さく自由の女神まで見えるんですよ。

セントラルパークでは夏、屋外でシェークスピアの出し物がありますが、ここリトルアイランドの中にも円形の劇場がしつらえてあります。700人の観客が収容できる劇場で、観劇は有料になりますが、バリーとダイアンのファミリー財団は、今後20年間の公演プログラムや講演維持管理までサポートすると発表しています。

週6日地元ニューヨークのミュージシャンやパフォーマーが、音楽やダンスにコメディーまで披露してくれるそうで、この劇場はニューヨークの舞台芸術のすそ野を広げ、パフォーミング・アーティストたちの層を厚くする手助けをきっとしてくれることでしょう。

設計したデザイナーの意図の中で、面白いのがこのトイレ。まるで洞窟の中に入っていくような不思議な感じです。

ミッドタウン市立図書館そばの、昔のニューヨーク・コレクションの舞台だったブライアントパークが、確か6年ほど前に約2千万円をかけてトイレを改造したのが話題に上りましたが、リトルアイランドでも写真のような洞窟風トイレが一般に開放されているんです。

実はニューヨークの場合、日本とは違って公衆トイレ事情はあまりよくありません。外出するとデパートか、それともコーヒーを買ってスタバに入るなどしなくてはならないので、気軽に使える公衆トイレは珍しいですね。ここにも長く公園で時間を使える気遣いがされているように感じます。

リトルアイランドのあるピア55からマンハッタンに入ってくると、すぐ目の前に出資者であるダイアン・フォン・ファーステンバーグのフラグシップ店が。彼女自身の店舗が歩いてほんの2~3分の距離ということも、このプロジェクトにかかわるきっかけだったんでしょうか。

ダイアンは2006年からつい最近まで、ニューヨーク・ファッション・ウィークの母体であるCFDA(The Council of Fashion Designers of America)の会長を務めていました。そうして、シーズン中の数々のショーは、リトルアイランド沿いのピアで行われていたので、この地域が彼女のいわば縄張りみたいな感じですね。

ダイアンのブテイックとリトルアイランドとの中間地点には、空中庭園が通っています。

マンハッタンにはアップタウン側、60丁目から110丁目辺りまでに渡って843エーカー(約340万平方メートル)もの広さのセントラル―パークがありますが、地価が高額なマンハッタンの真ん中に、それだけの規模の緑が確保されているということが何より凄いと思います。アップタウンが長く高級居住地区として認識されてきたのには、セントラルパークという巨大公園へのアクセスも条件としてあるんですね。

コロナ・パンデミックの少し前から、マンハッタンではダウンタウンの居住地区に緑を増やす努力がはらわれてきました。若者がバスケットボールをする小さな公園は多々ありますが、セントラルパークほどインパクトのある公園は見当たらなかったからです。ところが2009年、使わなくなった列車の高架道を使った空中公園ハイラインがオープン、ミッドタウンで再開発が進むハドソンヤード入り口の34丁目からミートパッキング地区までを空中で繋ぎました。今では年間800万人が、この空中庭園を訪れるようになっているそうです。

さて、去年の春オープンしたリトルアイランドのあるピア55の隣のピア57には、今度は今年の4月、マンハッタンでは最大規模のルーフトップパークができました。こちらも新名所の一つです。



ピア57は1952年に建設されて、1969年にはニューヨーク・シティ・トランジット・オーソリティが所有していたんですが、2003年に閉鎖されてからは、ずっと放置されてきました。

8万平方メートルの広さで、プライベートスペースと公共スペースに分かれていて、もうすでにグーグル社が入っていました。公共スペースの方には、緑地やパフォーマンス、シティワイナリーも11月くらいには営業を開始予定で、その頃には16,000スクエアフィート(1,486平方メートル)という広さのフードコートも完成するのだそう。楽しみですね。

犬の散歩途中にルーフトップ公園によるニューヨーカー。

マンハッタンは今屋内はほとんどマスク不要になっていて、レストランは混雑しているし、残念ながら交通渋滞も戻ってきてしまっています。ただ人々のライフスタイルはというと、健康志向やアウトドアを好む傾向は増えるばかりなので、リトルアイランドやルーフトップパークという新名所はニューヨーカーにとってうれしい限りですね。

さて、如何でしたか。

ではまた、ニューヨークでお会いしましょうね。

『マンハッタン新名所、リトルアイランドとルーフトップパーク』ニューヨーク・ニューヨークVOL.139Takashi -タカシ-

関連記事