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時間をかけて磨く言葉力/川柳作家やすみりえさんインタビュー

テレビの川柳コーナーでもお馴染み、川柳作家やすみりえさん。今年で川柳を始めて20年というやすみさんに、川柳を詠む魅力、そして昨今のSNS時代に「言葉力」をどうブラッシュアップしていけばよいのか、などお話を伺いました。

■五七五の短いフレーズにあふれんばかりの恋心

「逢えた春  胸に浮かべておくからね」
「実ってるつもりの恋の柔らかさ」
「流されることを選んだ星の群れ」

シンプルな言葉で、ふわりとした恋模様を詠んだやすみさんの句。中学時代ブームだった俵万智さんの短歌集『サラダ記念日』を手に取ってファンになり、それ以降、学生時代は短歌ニューウェーブと言われた若手歌人の穂村弘さんや林あまりさんなど、短詩型ジャンルをよく読まれていたそうです。

──川柳を始めたキッカケは?
大学2年の頃、「KOBE SEA QUEEN」に選ばれ、関西のテレビ 局でレポーターや番組アシスタントをやっていました。マスコミの人と会う機会も多くなり、20代半ばの頃に川柳専門出版社の同年の友人ができたのです。その友人が担当した女流川柳作家・庄司登美子さんの本をプレゼントしてくれて、読んでみたらたくさんの「恋の句」が書かれていました。  
 
「追伸に女ごころのありったけ」/『花酔い/葉文館出版(絶版)』より引用

作家の庄司さんは当時60代。書かれている句は、年を重ねなければ分からないものではなく、20代の自分が読んでも「そうだなあ」とすんなりと共感できるものがいくつもありました。恋心を、短い五七五の十七音で表現する潔さ。簡単な言葉で人を感動させる素敵さ。それを自分も真似してみたいと思って川柳を始めました。

■チャンスが来たら、その波にプカプカと浮かんでみる。

作句を始めたことを出版社の友人に話すと、「時々プロ に見てもらうのも良いのでは?」と、全国の川柳作家の先生方を紹介してくれて、川柳の世界へと繋いでくれたのです。ある時、自分が作った句が川柳専門誌に紹介されました。心を込めて作った自分の句が活字になり、大勢の知らない人に見てもらえるという感動は、とても深いものでした。川柳の世界は比較的年齢層が高いジャンルですが、20代から続けていけば何か形になるかもと。そのうち関西のテレビやラジオの川柳コーナーで出演依頼が来るようになり、句集を出す前からすでに川柳作家として活動していました。

──自然な形で川柳作家となられたわけですね。
25歳が転機でしたね。私の20代は、がむしゃらに何かを目指して頑張るというよりは、ある時期までは波が来るの待っていた、というか、自分にチャンスが来たらそれを逃さず波にプカプカ浮かんでみようというタイプでした。
大なり小なり、そういうチャンスは誰にでも来ると思うのです。それを見逃さないで、自分にしっくりくる、無理せずに乗れそうな波が来た時に浮かんでみる。それが大事だと思います。

■川柳を詠む時間は、自分と向き合う時間。

──やすみさんにとっての川柳の魅力とは何でしょうか?
川柳は五七五という定型詩。定まった型のポエムといわれています。私は恋の句を詠みたいと思って川柳を始めたので、その時々の自分の恋心をテーマに素直に感情を表現できるところが魅力です。
日常の中でふと浮かんだ、何気ないその時々の気持ちを五七五に落とし込みます。そして、いろんな言葉と出合うことが喜びです。また、今の心模様はどうだろうなど、いろいろな角度から客観的に自分を見つめる時間を、私は川柳を作る時間からもらっています。

──いろんな言葉と出合う、とはどういうことですか?
たとえばいま自分は前向きだなと思うとき、「前向き」という言葉ではなくて、それを違う表現にする。もっとも相応しい言葉、腑に落ちる言葉を見つけ出すことです。

──それが、言葉力を磨く、とういことになるのかもしれませんね。

■もっと時間をかけて作る返信を。

──言葉力と言えば、いまはメールが主な連絡手段となっていますよね。

そうですね。皆さん「もっとよく考えてゆっくり返信したい」という時もあると思うのですが、今はメールをすぐに返信しないと、「コミュニケーション下手と思われるのでは」とか、「仕事ができない人と思われるかも」・・・・そんな怖さがありますね。

でも、相手に答えを返すときはもっと“時間”をかけても良いと思います。私も川柳をつくるとき、表現したいけどしっくりとくる言葉が出てこない、と思いながら時が経ち・・・1年後にやっと素敵な五七五に出合えた、という経験があります。時間が、言葉にしたかった気持ちを形にしてくれて、それが作品になります。

■ワークショップで子供たちから学んだこと。

私が“川柳と時間”について考えるようになったのは、ある出来事があってからです。

文化庁国語課「ことばについて考えるワークショップ」で全国の子供たちに川柳づくりを教えていた時のことです。小学3~4年生を対象に、あるお題をテーマに30分で1句を作る課題を出した時、サッと10分くらいで作る子もいれば、ずっと考えてもできない子がいました。そんな子には「最初に出てきた言葉だけでも書いてみようか」などと伝えて最終的に提出させると、なかなか書けなかった子供の方が、いろいろな目線で深くものごとを観察していると思わせる句を作っていたのです。その句から自分の気持ちを表す言葉を一生懸命に探して書いた、ということも伝わってきました。

目いっぱい時間を使ってがんばった子の句には、「底力」みたいなものを感じたのです。

■意外と似合う、着物×ブランドバッグ

──やすみさんは、よくルイ・ヴィトンをお持ちですね。
はい。10代、20代の若いころから愛用しているから、という理由もあります。とくにヴェルニシリーズのツヤ感が好きです。財布は昔から赤色を使っています。赤だと大きなバッグの中で見つけやすいですよね(笑)。ヴェルニシリーズは最近少なくなっていますけど、財布、手帳、バッグなど結構使っています。

ルイ・ヴィトンのキャリーバッグもお気に入りの愛用品です。地方へ移動して着物を着る機会が多いので、着物や着付け道具を入れるのにちょうどよい大きさなのです。
ハンドバッグはどちらかというと、小さめのバッグが好きですね。

最近は、着物に合うハイブランドのバッグを探していて、セリーヌのバッグを買いました。色も穏やかで、パイソン素材の雰囲気も品があって気に入っています。

──ありがとうございました。

今回のインタビューで、こんな時代だからこそ、じっくりと“時間”をかけて言葉と向き合ってみることの大切さを感じました。その取り掛かりとして、川柳を始めてみるというのは良いかもしれません。

やすみりえ
川柳作家。兵庫県神戸市出身。大学卒業後本格的に川柳の道へ。恋を詠んだ作品が幅広い世代から人気を得る。現在、テレビやラジオの川柳コーナー出演のほか多数の公募川柳コンテスト選者・監修も務める。また、各地での川柳ワークショップ開催などを通して言葉を紡ぐ魅力を伝える活動も。著書に句集『召しませ、川柳』『ハッピーエンドにさせてくれない神様ね』(新葉館)、『俳句・川柳・短歌の教科書』(土屋書店)など。日本川柳協会会員。文化庁文化審議会委員。

■■取材・文・写真:鈴木幸子 SACHIKO SUZUKI/世界を旅するトラベルジャーナリスト&エディター。人が好き、取材も大好き。趣味は長唄三味線、川柳句会に参加すること。宮崎県宮崎市生まれ。

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